旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
しばらくして、大分皆お酒が回ってきた頃。会話を交わす私たちを見て部長が口を開く。
「で?どうだ、桐島。お前から見ても彼はいい男だろう!せっかくの縁だ、付き合ってみたらどうだ?」
「そ、そうですね……でも、私にはもったいないですよ」
「そんなことないだろう!よくお似合いだと思うぞ?なぁ、津ヶ谷もそう思うよな!」
部長は話題をよりによって津ヶ谷さんへ振る。
……やだ。津ヶ谷さんには振らないで。
これ以上つらい思いはしたくない。
『お似合い』だなんて彼に言われたら、苦しくて、悲しくて、どうしようもなくなってしまう。
泣いて、しまうかもしれない。
これまで必死に作ってきたはずの仮面が砕けていく。
ひきつる私を目の前に、津ヶ谷さんは口を開く。
「……それはどうですかね」
「え?」
彼がぼそ、とつぶやいた言葉。それは私にとっても、周囲にとっても予想外のものだった。
「あれ、そういえば桐島さん、明日朝早いって言ってたよね。そろそろ帰る?俺送っていくよ」
「えっ、あ、はい……」
明日朝早い、なんて彼にはひと言も言っていない。けれどその嘘に頷くと、バッグを持って席を立つ。
「じゃあ、お先に失礼します」
そして津ヶ谷さんも、荷物を手にするとともに居酒屋をあとにした。