旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「さすが愁さん!思いやりのあるお方ですね!」
「は、はは……そうですね」
小西さんはそんな津ヶ谷さんを疑いのない眼差しで見つめて絶賛した。
知らない方が幸せなことってあるよね……。
つい先日まで知らない側だった自分だからこそ、しみじみ思えた。
食事を終え、小西さんに見送られ家を出た私と津ヶ谷さんはふたり並んで駅の方向へと歩いて行く。
「……小西さんの前では、相変わらず王子なんですね」
頭ひとつ以上背の高い彼の一歩後ろを歩きながらつぶやくと、津ヶ谷さんはこちらを見ることなく頷く。
「まぁな。小西さんはうちの母親とかなり密に連絡を取ってるからな。下手な態度や発言するとバレるから気をつけろよ」
「わかってます」
「あと会社でも今まで通りの距離でいること。下手に接して結婚のことがバレたら……」
そう言いながら、彼はスーツの胸ポケットからスマートフォンをちらりと見せた。
そこには確か、昨日の昼休みのだらしない私が写った写真が収められているはず……!
それを思い出し、血の気がサーっと引く。
「わ、わかってますってば!もう!それ消してくださいよ!」
「そうだな。そのうち消す」
「そのうちっていつですか!」
話すうちについた駅で、津ヶ谷さんは自然とひと足先に改札を抜け、ホームの一番端へと向かってしまう。
ここからは別行動、ってわけだ。
ひとりになって、私は彼とは正反対のホームの端に立った。