旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
セクハラ……。
オフィスのど真ん中で触れて来るなんて、勇気があるというか、なんというか。
他の社員たちは巻き込まれたくなくて見て見ぬ振り。それを分かった上で接してきているから余計タチが悪い。
さて、どうかわすか。
思い切りその手を振り払ってやりたいところたけれど、『冗談なのにな』と笑われるのが想像ついて余計むかつく。
「それじゃあ、俺も行き遅れですね」
すると、そこで割り込むように発せられたのは津ヶ谷さんの声だった。
部長とともに驚いて振り向けば、そこにいた津ヶ谷さんはにっこりと笑って部長の手を腰から外させる。
「へ!?い、いや……それは」
突然の津ヶ谷さんの登場にうろたえながら辺り見ると、『王子を悪く言う気か』と言わんばかりの、女性社員たちからの鋭い視線が向けられている。
部長はそれに怖気付くように、言葉を濁してその場を去って行った。
す、すごいなぁ……特に周囲からの圧力が。
その視線が今度はこちらへ向けられないように、私はにこりと笑みを作る。
「すみません、ありがとうございました」
「どういたしまして。あんな言葉気にしないようにね」
それに応えるように津ヶ谷さんもにこりと笑うと、コピーを終え排出された用紙を取り私に手渡してくれる。
それは、王子としての作られた優しさ。皆の前だから、見せてくれるものだ。
でもああいうところで颯爽と現れて助けてくれちゃうなんて、まるで本物の王子様みたいだ。
そんなことを考えながら、彼の優しさがこの胸をドキッとさせた。