旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「津ヶ谷さん。お疲れ様です」
「お疲れ様。ごめん、この書類入力お願い」
お互いに外面でにこりと笑いあって話すと、津ヶ谷さんは書類を渡して慌ただしく部屋をあとにした。
今のやりとりも、素だったら『おい、これやっとけ』と偉そうに言うんだろうなぁ。
そんな津ヶ谷さんの姿が簡単に想像ついて、思わず苦笑いがこぼれた。
「……あれ」
先ほど手渡された書類を見れば、そこに横長い付箋が貼ってある。
『今日も遅くなる』
整った字で書かれたそのひと言に、津ヶ谷さんからの伝言なのだと察した。
今日も遅いんだ。大変そうだなぁ。
けれど会社ではもちろん家でも、仕事についての愚痴ひとつも言わないあたりが、津ヶ谷さんらしいと思った。
「ただいまー……あれ?」
その日の夜。
津ヶ谷さんの家に帰宅すると、いつもは明かりがついているはずの玄関は真っ暗だった。
あれ、小西さんいないのかな……。
不思議に思いながら、電気をつけて、人の気配のしない家の中を歩く。
そして居間の電気をつけると、そこにはラップがかけられたおかずと一枚の置き手紙があった。
『彩和さんへ
用事があるため夕方であがらせていただきます。お夕飯の支度はしてありますので、あたためて食べてくださいね。 小西』
小西さん、もうあがっちゃったんだ。
でも夕ご飯は用意してくれていったんだな。ありがたい。
ガスコンロに置かれた鍋をのぞき、お味噌汁を確認すると、一度自室へ戻り部屋着に着替えてからふたたび台所へ戻った。
そしておかずとお味噌汁をあたため、ごはんをよそり、と食事の用意をする。