旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
まっすぐに見つめる茶色い瞳に、どうしてか抵抗する気など起きず私はその軽い力に従った。
そして、空のオレンジ色も見えなくなるくらい、視界が彼で埋め尽くされた。その時。
「ただいま帰りました〜」
小西さんの高らかな声とガラガラッという玄関を開ける音に、私たちは一瞬で我に返り体を離した。
「あっ、おふたりともおかえりなさいませ!早かったですね……って、あら?どうかしました?」
「い、いえ別に!おかえりなさい!」
慌てて立ち上がり小西さんの元へ駆け寄ると、彼女が両手に持っていた買い物袋を受け取り台所へ運んだ。
い、今津ヶ谷さん、キスしようとした……?
なんで、そんな、いきなり。
まるで本物の夫婦のような、自然な空気で。
思い出すと頬はたちまち熱くなり、真っ赤になっているだろうことが想像ついた。
セリフだとわかっていても嬉しかった、か。
『私も』なんて言ったらどうなるんだろう。
偽装の関係から、本物に近づけることはあるのかな。
淡い期待を飲み込むうちに、空に浮かぶ夕日は深く沈んでいった。