旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
「津ヶ谷さん。お母様、いい方ですね」
見上げながら言うと、彼は視線をこちらに向けることなく歩き続ける。
「……厳しいだけだったら嫌いになれたのにな」
ぼそっと呟いたその言葉からは、お母さんの厳しさが愛情からくるものだとわかってはいることが感じ取れた。
少しの溝はあるだろう。
けど、お互いのほんの少しの素直さで埋まってしまう気もした。
しばらく歩き、着いた駅でいつものように電車に乗ろうとする。
ところが、いつもなら余裕のある電車内は今日はなぜか満員で、乗客がすし詰め状態になっていた。
「わ……大混み」
「遅延でも発生したんだろ。でも俺たちもこれ乗らなきゃ時間ギリギリになるし、乗るぞ」
「えっ、あっ」
津ヶ谷さんはそう言うと、私の腕を引き電車に乗り込む。
たちまち人混みに埋もれてしまう中、彼は私を壁際に置き、背後の壁に肘をつく形になる。
背の高い津ヶ谷さんを見上げると、彼は少し窮屈そうにしながらも体勢を崩さぬように耐える。
「大丈夫なんですか?こんなところ誰かに見られたら……」
「これだけ満員ならわからない。もし気付かれてもなんとでも言えるだろ」
まるで守ってもらえているかのような形で、私は嬉しいけれど、いいのだろうか。
そんな小さな不安から彼を見上げたままみつめると、こちらを見た津ヶ谷さんは突然右手で私の目元を隠す。
「この距離で見上げるな」
「へ?なんでですか?」
「いいから。下向いて涼宮くんのことでも考えてろよ」
そう言いながら津ヶ谷さんは私の頭を下に向けさせた。
見上げるなって、なんで?
意味がわからないまま電車に揺られ、乗客が乗り降りするうちにいっそう距離は近づく。
気づけば私は彼の胸元に顔を当てる形となっていた。