旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
ち、近い……。
顔が彼のシャツに当たってファンデーションがついてしまっては大変だ。そんな思いから顔を横に背ける。
思わずその胸に耳を当てるような形になってしまいながらも、ドク、ドクとその心臓の音に耳を傾けた。
心臓の音が、早い。
もしかして、さっき見上げるなとか言っていたのは、少しは照れていたということかな。
そうだったら、いいのにな。
なんて、頭の中では津ヶ谷さんのことばかり考えてしまう。
大好きなはずの涼宮くんのことが、考えられない。
「……おい。次、降りるぞ」
「あっ、はい」
彼の低い声にふと我に返ると、ちょうど電車が駅に停まり、私たちは吐き出されるようにホームに出た。
窮屈感から解放されたせいか外の空気が新鮮なものに感じられ、ふうと深呼吸をしていると、そのうちに津ヶ谷さんは足早に改札方面へと向かってしまった。
……会社の最寄駅で、いつまでも一緒にはいられないよね。
いつも通りの、他人のフリ。
わかっているはずなのに、遠くなるその背中に、少し寂しく思えてしまうのはどうしてだろう。
気を取り直して会社へ向かい、やってきたオフィスで仕事に取りかかった。
少しの事務作業を終え、頃合いを見て資料をまとめて外出の準備を始める。
「桐島さん、今日は外回り?」
「はい。取引先の店舗が改装するのに、大々的にうちの商品を展開してくれるそうで。売場レイアウトの打ち合わせに」
「おっ、ということは発注も増えるし桐島さんまた営業成績上がっちゃうね〜」
上司の言葉を笑って流すと、鞄を持ってオフィスを出る。