旦那様は溺愛暴君!? 偽装結婚なのに、イチャイチャしすぎです
そうだ、資料としてうちのショールームの写真を撮って持って行こうと思っていたんだ。
そう思いひとつ下のフロアにあるショールームへと向かう。
すると、ちょうどそこからうちの社員とともに出てきたひとりの男性と目が合った。
日に焼けた色黒の肌に、ストライプ柄のシャツ上下黒色のスーツを合わせた格好の彼。
よく見覚えのあるその姿に思わず足を止めると、彼も気づいたようにこちらを見て足を止めた。
「あれ、彩和?」
「あ……」
彼を見た瞬間思い出すのは、もう4年も前の苦い記憶だった。
『ありえないだろ。そんな気持ち悪い趣味。無理だわ』
その時の彼の軽蔑するような態度と、見下したような笑みがはっきりと思い出され、体の奥でサーっと血の気が引くのがわかった。
どうしよう、どんな顔をすればいい?
頭が真っ白になって、パニックになって、言葉が出てこない。
驚いた顔をする彼と、どうしたのかと不思議そうな顔をする社員。
そんなふたりの視線を向けられて、余計足が固まって動けなくなってしまう。
愛想笑いでかわさなきゃ。切り抜けなくちゃ。
そうわかっているのに動けなくなる。
「桐島さん」
その時だった。背後から名前を呼ぶ声にふと我に返った。
振り向くとそこにいたのは津ヶ谷さんで、彼はにこやかな笑顔でこちらを見ていた。
「ちょうどよかった、課長からさっき伝言を頼まれてたんだ。こっちで、話いい?」
「あ……はい」
手招く彼に、私は駆け寄るとふたりですぐ近くのミーティングスペースへと入った。
「津ヶ谷さん、課長からの伝言ってなんですか?」
「は?そんなの嘘に決まってるだろ」
「えっ」
嘘?
あまりに堂々としていて自然だったのですっかり騙されてしまった。