強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました



 同棲のように暮らしていたのに、荷物を全部持って出ていった。それはこの家に帰ってくるつもりはないという事なのか。けれど………。

 そこまで考え、秋文は持っていたグラスに入った酒を一気に飲んだ。


 今は何を考えてもわからないことだらけだ。
 けれど、決まったことはある。それをやるだけだ。

 そう思うと、秋文はその後も黙々も酒を飲み続けたのだった。










 夜中になると、出は立夏を送って帰っていった。
 片付けもしっかりやってから帰るのが、出のマメな所だ。
 今日はほとんど寝て過ごしたと言うのに、酒のせいか、秋文はまた眠くなってくる。
 いつも働きづめだったつけがまわってきたのかもしれない。

 シャワーを浴びてから、すぐに寝てしまおうとする。寝室に入ってすぐに、サイドテーブルに何か置いてあるのが目に入った。


 「………千春の。」
 

 秋文は、手を伸ばして小さな箱を手に取る。
 千春が置いていった、秋文への誕生日プレゼントだ。


 手紙をテーブルに置き、ゆっくりと包装を解いていく。

 中から出てきたのは、時計だった。

 ファッション用ではなくスポーツ用のもので、軽くて防水になっているようで、しかも心拍測定も可能なもののようだった。
 ブラックのシンプルでシックなデザインで、秋文がよく着用するモノトーンの服装にピッタリだった。

 千春は、普段でもトレーニングでも使えるようなものを選んでくれてのだろう。
 今まで千春からは、何度もプレゼントは貰ってきていた。けれど、恋人になって初めての誕生日プレゼントだ。
 秋文が嬉しくないわけがなかった。
 

 片思いをし続けた人が、恋人としてくれたプレゼント。それを手にして、秋文は夢を叶えるための決意が更に強くなった。


 目覚ましの時間を早めに設定して、すぐにベットに潜り目を閉じる。
 千春がこのベットで一緒に寝るようになってから、一人になると思う事があった。こんなにも、このベットは大きかっただろうか、と。
 大きすぎるベットで過ごした千春との日々は、甘すぎて幸せな時間だった。だからこそ、今が寂しくて切なくなってしまう。
 



 10年以上片思いをしていたじゃないか。
 その時は、ずっとひとりだった。家に付き合っている彼女を連れてくることはなかった。

 独りでも大丈夫なんだ。
 そう自分に言い聞かせて、秋文は無理矢理考えるのを止めた。その内に、すぐに睡魔が襲ってきたのだった。








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