強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
「さて、まずは秋文の話を聞こうかな。」
ミーティングルームは、もちろん無人だった。
車イスに乗った花巻の前の椅子に、秋文が座ると、花巻がそう話を切り出した。
彼はすでに秋文が話す事をわかっている。
そうとわかっていても、緊張してしまうのは仕方がない事だ。
秋文は、左腕にある腕時計をギュッと握りしめながら話を始めた。
「以前、スペインのチームに誘われていると話した時は、それは断ろうと思っていました。それに花巻先輩にもそう伝えました。」
「あぁ。そうだったな。」
「けど………やっぱり、スペインへ行こうと思い直したんです。今更だし、我が儘かもしれないんですが、俺がやりたいことはサッカーだったって気付いたんです。会社を起業したけど、海外でのサッカーが出来るのは今しかない、貴重なチャンスなんだって。」
秋文は、しっかりと花巻を見据えて気持ちを伝えることが出来てた。自分が考えている事が、すらすらと口から出てきたのは、きっと左腕にある腕時計のお陰だな、と秋文は思った。
「大切な人と会えないのも、せっかく起業した会社にも、関われる時間が少なくなってしまいます。けど、その時間は帰ってきてから、もっと大きなもので返せると思うんです。だから………少しの間、花巻先輩に会社を託してもいいでしょうか?」
秋文がそう言うと、花巻は真剣な表情で秋文をじっと見つめた。それから、ゆっくりと車イスを押して秋文の目の前にくる。
「それは、おまえが決めたことなんだろう?」
「………恥ずかしいですけど、千春に背中を押されてやっと気づいた事なんです。」
「けど、最後は自分で決めたんだ。」
「はい。……そうですね。」
秋文は恥ずかしそうに苦笑をする。
すると、花巻は腕を伸ばして秋文の頭をぐしゃぐしゃに撫でた。
「わかった!俺に任せろ!」
「………花巻先輩。ありがとうございます。」
花巻の頼もしい言葉と、いつもの明るい笑顔でそう言われ、秋文はホッとした表情を浮かべた。そして、深くお礼をして頭を下げた。
すると、花巻は「ま、かっこつけられるのはこれぐらいだけどな。」と言った。
秋文は何の話かわからず、不思議そうな表情のまま顔を上げた。