強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました



 もともと、お花見は好きで毎年四季組で桜を見に行っていた。けれど、秋文がこのネックレスをくれたことで、更に桜が好きになっていた。
 桜をモチーフにしたものをみると、ついつい気になって見てしまうほどだった。
 ワシントンにある桜祭りは有名だったので、千春もとても気になってはいた。それに行けると思うと、少し先の話だったけれど、楽しみに思えた。






  
 就業時間が終わり、千春はすぐにスマホを開く。
 すると、1件のメッセージが来ているのがわかり、千春はドキッとする。

 急いでそのページをひらくと、メッセージの送信者が秋文だとわかった。

 内容はとても短いものだった。


 「今日はいい試合が出来た。俺よりすごい選手は沢山いるけど頑張る。」


 秋文らしい簡潔な文章だった。
 けれど、それだけで千春は、目が潤んでしまうのがわかった。


 秋文は時々千春にメッセージを送ってくれた。
 「おはよう。」という、短い挨拶の時もあれば「こっちは暑いけど、おまえのいるところはどうだ?体調には気を付けろよ。」と、千春を気づかってくれるものなどがあった。

 それを読むたびに、秋文の顔が浮かんできて、嬉しさと切なさと、寂しさが千春を襲った。
 秋文に会って、沢山抱き締めて欲しい。暖かい体温と、彼の優しい声を感じたい。
 そう思ってしまうのだ。


 彼からのメッセージをしばらく眺めてから、千春はスマホをバックの中に入れた。
 千春はメッセージを読むだけで、返事は送っていないのだ。
 既読がつくので、秋文は千春がメッセージを読んだのわかるはずだった。

 
 秋文のメッセージに返事をしたいなる事は多かった。けれど、千春はその気持ちを必死に我慢していた。

 1度秋文にメッセージを送ってしまったら、我慢していた気持ちが溢れて、彼に伝えてしまいそうだと千春は思っていたのだ。

 秋文は今、日本ではない異国の地で夢のために挑戦しているのだ。頑張っている所を邪魔などしたくはなかった。
 秋文に「会いたい。」と一言でも言ってしまったら、千春の気持ちが抑えきれなくなってしまいそうだったのだ。


 気持ちを落ち着けながら、千春は首もとの桜のネックレスに触れる。
 そして、小さな声で「頑張ってね、秋文。応援してる。」と、届かない言葉を口にしたのだった。



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