強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
千春の部屋の前に到着して、鍵を差そうとすると、階段をカンカンと足早に上る足音が聞こえた。アパートの住人だろう。泣いた顔を見られるのは恥ずかしいので、千春は俯いたまま、鍵を開ける。
ドアを開けた。はずだったのに、千春がドアノブから手を話してしまったので、そのドアはバタンと閉じてしまう。
「………っ!!」
「世良さんっ………。」
突然、後ろから抱き締められて千春は、驚いてドアから手を離してしまったのだ。
自分の名前を呼ぶ声は、先程まで一緒にいた人と同じものだった。
知っている人だとわかると少し安心してしまうけれど、抱き締められている状況に困惑してしまう。
「塚本さん………?あの……。」
「世良さんの彼氏って、一色選手だよね?」
「………えっ………そんな事ないです………。」
「世良さん、嘘つくの下手だね。」
耳元で塚本の声が聞こえる。
顔や体型は似ていても、やはり声は秋文に似ていない。それなのに、ドキドキしてしまうのは、抱き締められているからなのだろうか。
「俺なら世良さんに寂しい思いなんてさせない。一式選手相手だと敵わないかもしれないけど、俺ならずっと近くに居てあげられる。傍にいて、君を守ってあげられる。だから………。」
「塚本さん………。」
その先の言葉を言わないで。
もうこれ以上、考えたくない。考えられない。
私の心の中を乱さないで欲しいと千春は願った。
けれども、その願いは叶わなかった。