強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
「………サッカー日本代表決定…………。」
そこには1面で今回の日本代表の選抜が決まった事が書いてあった。
千春はその選手一覧に視線を合わせる。
出や静哉の名前はある。MFのメンバーを見た瞬間。
千春は息を飲んだ。そして、目を大きくしたかと思うと、すぐに大粒の涙が流れてくた。
「………秋文の名前だ……。秋文、日本代表に選ばれたんだね。………よかった。よかったぁー。」
人目も気にせずに泣いてしまう。
そんな事を気にしている余裕すらなかった。
秋文の夢が叶ったのだ。喜んで感動しないわけがなかった。
ずっと頑張ってきたサッカーで、また秋文の力が認められて、そして、日本のチームに必要とされたのだ。
きっと、秋文も喜んでいるはずだろう。
そう思うだけで、笑顔になってしまう。
…………忘れたいと思っていた秋文の事。
けれど、忘れるはずもなかった。そして、忘れなくてもいいのだ。彼の笑顔も、彼への想いも。
それを気づけたときに、千春はずっと、悩んでいた事がバカらしくなるほど、晴れ晴れとした気持ちになった。
「………やっぱり知らなかったんだね。その新聞は、1週間ぐらい前のだよ。」
「え………そうだったんですね。ネットニュースと友達からの連絡も見ないようにしてて………。」
「そうだと思ったよ。でも、よかったね。一色選手。それに、冬月選手も。」
塚本には、ふたりが幼馴染みという事も話しをしていた。もちろん、秋文と付き合うことになった事なども。
「よかったね。」の言葉には、千春の幼馴染みとしての秋文をお祝いしているのだとわかった。
けれども、それでもよかった。
秋文が幸せならば、それでいいのだ。
ずっと、昔に秋文が千春を好きな気持ちを隠して、見守ってくれた。
次は千春が秋文を見守りたいと、決めたのだ。
恋人じゃないとしても、幼馴染みとして。
「ありがとうございます。きっと、秋文もよろこぶと思います。」
そう返事をして、運ばれてきた抹茶と桜の形をした和菓子を、うかれた気分のまま口に入れた。
涙を拭きながら食べた日本の味を、決して忘れることはないと、千春は思った。