強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
塚本は「無理矢理しちゃってごめんね……。」と謝りながら、乱れた服を直して、ゆっくりと千春を立たせてくれた。
千春が立ち上がって、塚本を見上げて「ありがとうございます。」というと、彼はじーっと見つめた。
「しっかり言葉で伝えておくね。………世良千春さん、好きです。俺と付き合ってくれませんか?」
「…………ごめんなさい。好きな人がいるので、お付き合い出来ません。」
千春がそう答えると、塚本と千春は小さく微笑みあった。
「もう1回だけ抱き締めてもいいかな?これで、最後にする。」
「…………はい。」
そう言うと、塚本はゆっくりと大切なものを壊れないように抱き締めるように、千春を優しく抱きしめた。
「本当に好きになっていたんだ。」
「…………ありがとうございます。」
しばらく塚本の体温を感じた後、体がゆっくりと離れていく。恥ずかしそうに、顔を見つめる。
すると、不意に塚本の唇が一瞬千春の唇に触れた。
本当に短いキス。
塚本は、得意気に「最後にキスも貰っておくね。」と笑った。
そんな茶目っ気のある彼を見ていると、千春は心がホッとした。
彼と付き合うことはなかったけれど、もし別の時間、別の場所で会っていたら、千春が好きになっていたのかもしれない。
そんな風に思うぐらいに、魅力的な男性だ。
塚本は、手を繋いで千春を家まで送ってくれた。
手を繋ぐのも最後にするから、と楽しそうに、そひて少し寂しそうに言った。
部屋の前で別れた後。
千春は、少しだけ気持ちが晴れ晴れとした。
自分の気持ちに気づいたのだ。
もう少しで3年が経ってしまうけれど、それでも秋文への想いに気付いたのだ。
彼はもう自分の事は忘れて、違う人を思っているかもしれない。
そう考えると切なくて寂しくて泣きそうになる。
けれど、まだ何も終わっていないのだ。
彼に会って、話をしよう。
ベッドのサイドテーブルにいつも置いてある秋文の部屋の鍵。
それを見つめながら、千春は強く心に決めた。