強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました
少し緊張した面持ちの秋文の声に、千春はこくりと頷き、ゆっくりと今の心情を彼に伝える。一つ一つの言葉を、丁寧に彼に伝えた、心の中に気持ちをそのまま教えられるようにと願いながら、話をした。
「……あのね。秋文の話を聞いて、確かに嫉妬みたいな気持ちもあったし、ドキドキしちゃうこともあった。でも、秋文が好きなのかなって思うと……ごめんなさい。まだ、わらなくて。それに、まだ先輩が好きって気持ちもあって。だから、秋文と付き合うとしたら、先輩を忘れるために利用しちゃってるみたいになってしまいそうなの。だから、今は……。」
全ては自分の都合だ。
先輩を忘れらないから。秋文を好きなのか、わからないから。そんな理由だけれども、大きな理由。
大切な友達だから、うやむやのままにはしたくない。だから、「ごめんなさい。」と言葉を続けようとした。
けれども、それを秋文は止めた。
「忘れるために利用してくれて構わない。それで、おまえがあんな奴の事忘れられるなら安いもんだろ。」
「……え。」
「他の男を忘れるために頼られるなら嬉しいぐらいだ。」
秋文は、にっこりと笑うと千春の頭を撫でてくれる。その優しさにまた少しだけ、胸が高鳴る音がする。
「そんなのダメだよ……。」
「ダメじゃない。俺がいいって言ってるんだから、いいんだよ。」
「そんな…………。」
「絶対に忘れさせて、俺を好きにさせるから。だから、俺のモノになってくれるだろ?」
「いいの、秋文。こんな私で……。」
「おまえがいい。おまえが好きなんだ。俺の彼女になってほしいんだ。」
彼の優しい瞳と言葉が、千春の体に染み込んで、中から温かくしてくれる。こんな誠実な告白をされてしまうと、彼ならば先輩の事を忘れさせてくれるんじゃないか、そして、秋文に夢中になってしまうのではないかと、予感してしまう。
千春は、少し戸惑いながらも彼の優しさに甘えたくなる。
「………あの、こちらこそ、よろしくお願いいたします。」
「っっ………。よかったっ!」
「きゃ!秋文っ?!」
千春の返事を聞くと、秋文はすぐに千春を思い切り抱き締めた。耳元で聞こえてくる声が、とても嬉しそうで、千春も思わず笑顔になってしまう。
秋文が、自分と付き合えることを喜んでくれているのだ。人と付き合って、相手がこんなにも喜んでくれたことがあっただろうか。
「ずっと、こうしたかった……おまえを抱き締めたかった。……幸せすぎて、おかしくなりそうだ。」
「秋文、大袈裟だよ。私、ずっと近くにいたじゃない。」
「近くにいたのに、触れられなかった。それがなにより辛かったんだ。」
「秋文…………。」
「しばらく、こうさせてくれ。……頼む。」
「うん………。」
いつもは冷静で落ち着いている彼が、興奮した様子で話そして、力強く抱き締めてくれる。
与えられる「好き」という感情を、全身で感じながら、いつもとは違った幸せを、千春は目を閉じて感じていた。