強気なサッカー選手の幼馴染みが、溺愛彼氏になりました



 「確かここら辺のマンションだったはず………。」


 名前だけは聞いたことがあったマンション。
 地図を見ながら、夜道をうろうろと歩いて、目的地付近を歩くと、一際大きなタワーマンションがあった。敷地の中には、高級車が並んでおり、ここは高級マンションであると言う事がすぐにわかる。


 「………こんなところに秋文は住んでるんだ。でも、日本代表にも選ばれるぐらいだし、当然だよね。」

 
 自分には場違いの場所だと思いながらも、千春はビクビクしながらもマンションの中に入る。
 大きなエントランスには、立派なソファが並べられていた。
 入ってすぐの正面に、マンションコンセルジュの女性がおり、にこやかに微笑んでこちらを見ていた。


 「こんばんは。どちらにご訪問ですか?」
 「あの、一色秋文さんのお部屋はどちらですか?」
 「一色様。訪問のお約束が入ってないのですが……。申し訳ないですが、約束がない場合はお部屋を教えることが出来ません。」
 「え………そう、なんですね。あの、おうちにいるかだけでも教えてくれませんか?」
 「かしこまりました。お名前は?」
 「世良千春です。」


 コンセルジュの女性が部屋に電話をかけてくれたけれど、秋文は出なかった。メッセージを残しますか?とも聞かれ、料理と一緒に渡そうとも思ったけれど、よく考えてみれば、今日中に帰ってくるかはわからないのだ。



 「はぁー………。頑張りすぎちゃったか。」


 マンションから出て、また来た道を千春は1人トボトボと歩く。
 秋文に会えると思って頑張った料理やメイクに洋服がすべて意味のないものになってしまった。
 高めのヒールで、足は痛くなるし、大量のタッパーが入った袋のせいで、手は赤くなっていた。

 自分の考えなしの行動が招いた結果なのに、何故か切なくなってしまう。
 
 「誕生日なのになー。」と、ため息混じりに呟きながら、駅に向かって歩いていた。


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