分け合う体温
理人は、無言だった。

「理人?」

ただ遠くをじっと見つめて、何かを密かに隠しているようにも、訴えているようにも見えた。

「ごめん……その話、また今度にして。」

そう言うと理人は、起き上がってTシャツを羽織った。

あまりにも突然で、私は不安に襲われた。

「理人。私、何かいけない事した?」

「ううん。」

理人は背中を向けたまま、こっちを見ない。

「由乃は、悪くないよ。」

「じゃあ、どうしてこっちを見てくれないの?」

しばらく立ったままの理人は、何か考えている。


仕方がなく私も起き上がって、服を着た。

「ごめん、由乃。ごめん。」

何度も謝る理人に、やはり初体験で何かあったとしか、考えられなかった。

「そんなに、謝らなくてもいいよ。」
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