先生と17歳のあいだ
ドキッと、心臓の鼓動が速くなる。
立ち幅跳びは苦手だけど、先生の元に行けるならと、私は覚悟を決めた。
先生が言っていたように両手を思い切り振って床から飛び立つ。
……あ、やっぱり距離が足りないと、空中で不安になっているところに、先生の手が伸びてきて私は引っ張られるようにして抱き止められた。
「あぶねっ」
バランスを崩した先生は私を抱きしめたまま、ガンッと後ろの壁にもたれ掛かる。
「はは。超ギリギリ。的井のケツの跡が床に付くところだったな」
明るく笑う先生の顔を私はまだ見られない。
先生に抱きしめられているこの状況が苦しいのは、マスクをしているせいじゃない。
先生の匂い。
先生の体温。
顔を埋めている場所からじわりじわりと想いが溢れてくる。
やばい。どうしよう。どうしよう……。
「的井?」
動かない私に先生が問いかけてきた。
「……すいません。私、帰ります」
「え、おいっ!」
制止を振り切って私は先生の身体から離れた。
本当は離れたくなかったけれど、離れないと心臓が壊れると思った。
数学準備室を出て、私は足早に廊下を歩く。
バクバクとしている鼓動を必死で落ち着かせながら、私はマスクを外して胸に手を当てた。
顔、先生に見られなくてよかった。
だって、私、今ものすごく赤い顔をしてる。
笑って誤魔化せないくらい。
夏の暑さのせいだって、言えないくらい。