先生と17歳のあいだ
向かったのは三階にある数学準備室。郁巳先生が職員室よりもここで過ごすことが多いことも噂で耳にしていた。
数学準備室は廊下の突き当たりにあって、ドアに縦長の磨りガラスは付いているけれど、中の様子は一切見えないようになっている。
私は深呼吸をして、ドアを二回ノックした。
すぐに「はい」と返事がして、それは間違いなく郁巳先生の声だった。
「……失礼します」
私はドアノブを右に回す。ガチャリと開いた瞬間に、眩しいぐらいの西日が射し込んできて私は自然と目を細めた。
「お、的井じゃん。どうした?」
先生は本棚の前にいた。
きっとそれなりに広いであろう数学準備室はたくさんの物で溢れている。
天井まで積み上がっている段ボールに、数学では決して使わない地球儀。
先生がデスクワークをする机にはライトスタンドと、乱雑に置かれたホチキスやハサミといった文房具。100円均一で揃えたみたいなブックスタンドには出席簿と、中間テストの作成途中のような紙が無造作に挟まれていた。