先生と17歳のあいだ
「そんなにコソコソと家を出入りされると気持ち悪いのよ!」
どうやらお母さんが怒りに任せてお皿を床に叩きつけたようだ。
「あ?はっきりと言わなきゃ分かんないみたいだから言うけど、この家は俺のものだから。誰がローンを払ってやってると思ってんだよ」
「払ってやってる?諸々の生活費は私が出してるのよ」
「ふっ、はは。生活費って料理もろくに作らないで掃除もしないくせになにに出費してるんだよ。どうせ無駄に高い化粧品とか美容室とかだろ?お前のほうが若作りしすぎて気持ち悪いよ」
ドア越しにふたりの会話を聞きながら胃がキリキリとしてきた。
他を人が喧嘩をしていても、傷つく言葉で罵り合っても別になんとも思わないのに、両親のいがみ合う姿はやっぱり精神的にきつい。
うちの両親はどちらも外面はいいから近所の人はおそらく私たちのことを円満な家族だと思ってる。
なかなか家に帰ってこないお父さんのこともきっと、家のために身を削って働いてるとしか思ってないし、お母さんのことだって仕事と主婦を両立させて立派だと思ってる。
外からじゃ決して見えない家の中の崩壊。
ギリギリとしてる胃を押さえながら、私は両親の言い合いに耐えられずに家を出た。
外の空気は生暖かかった。
セミの声の代わりに鈴虫が鳴いていたけれど、風情を楽しむ気分にはなれない。
当てもなく夜道を照らしている外灯の下を歩き、私がたどり着いたのは駅前のファミレスだった。