先生と17歳のあいだ
「……先生、私……」
言葉を言いかけた瞬間、背後でカサッと音がした。
「ひいっ……!」と、思わず縮こまる私を見て先生がクスリと笑う。そしておもむろに立ち上がり、本棚の上にある〝なにか〟を先生は手に取った。
「珍しい。いつもは音ひとつ立てないのに」
それは、簡単に持ち上げられるぐらい小さな水槽だった。ガラスを叩くようにして爪をガリガリしていたのは……。
「カメ、ですか?」
私は確認するように水槽に顔を近づけた。
水の中にいたのは間違いなくカメだったけれど、私が今まで見たことがあるカメとは明らかにサイズが違う。
「うん。ミシシッピニオイガメ。世界最小級らしいよ」
……こんなに小さいカメなんて初めて見た。
大きさは約10㎝ほど。水槽の中にはフィルターがあり、ブクブクとしている泡の中に水草が漂っている。
真ん中には岩が置かれていて、どうやらカメがよじ登って陸に上がることもできるようだ。
「……先生が飼ってるんですか?」
まさか数学準備室にカメがいるなんて思ってなかった私は、つい釘付けになってしまっていた。
「元は生物の田中先生が飼ってたんだよ。でも去年退職しただろ?だから俺が引き継いだ。30年生きるんだって」
カメは万年というイメージがあったら短くも思えるけど、私は30年カメを飼い続ける自信はない。でも先生はなんだか楽しそう。