先生と17歳のあいだ
先生は私たちとは違ってこのあとも仕事がある。
『頑張ってください』と、声をかけるのは少しおかしい感じがするし、『何時頃に帰れる予定なんですか?』と、聞くのはもっともっとおかしい。
……そういえば、私、今日先生と話していない。
学校が短いのは嬉しいけれど、先生と喋るチャンスがないのは全然嬉しくない。
「あ、あの……」
先生が職員室へと戻る前に私は声を出した。
けれど、すぐに「的井さん」と名前を呼ばれてドアのほうを確認すると、和谷先輩が立っていた。
「教室に迎えにきたほうが早いと思って」
先輩がそう柔らかく微笑む。
教室にはまだ私たち以外にもクラスメイトが残っていて女子たちは先輩を見るなり興奮したように声を上げていた。
先輩は誰が見てもカッコいいし、一緒に帰れるなんてすごく贅沢なことだと思う。
でも、私は少しだけ……先生に知られたくなかったという気持ちのほうが強い。
一緒に帰ることを承諾したのは私なのに、本当に中途半端っていうか、先輩にも失礼だと分かっている。
「じゃあ、忘れ物がないように気をつけて帰れよ」
先生は先輩が迎えにきても顔色ひとつ変えないで、そのまま教室を出ていってしまった。
先生に反応がないことなんて当たり前なのに、また私は胸がチクリとしてる。
これは望みなんて1パーセントもない片想いなんだって、今ひどく実感してしまった。