先生と17歳のあいだ
先生の銀色の灰皿がひんやりとしてしまうほど、外は肌寒かった。
私はきっと〝こういうこと〟をする人のことを理解できない側にいたはずだった。
なのに今、私の足は先生の家がある方角へと向かってる。
普通に考えて怖いし、引くし、なんなら気持ち悪いと思われてしまうことは十分分かっているのに止められない。
恋は盲目、なんて言葉を作った人は天才だと思う。
「……あれ?」
さすがにアパートに押し掛けるのはナシだろうと考え直していると、前方から誰かが歩いてきた。
それはパーカーに黒いブルゾンを着た郁巳先生だった。
先生の自宅までは目と鼻の先。『こんなところでなにしてんの』と不審がられてしまうと思いきや……。
なにやら先生の様子がおかしい。
「お、なんだよー。誰かと思えば的井じゃんか」
明らかにテンションが高くて、呂律(ろれつ)もあまり回っていない。
「……先生、もしかしてお酒飲んでますか?」
「んーだって誘われたから」
どうやら同じ職場の先生と飲んできたらしい。
また生物や古典の先生たちだろうか。ということは、今日の休み時間に生物の先生が呼びにきた用件って、まさか飲みの誘いだったりして……?
私は今の今までてっきり仕事が長引いていると思っていたのに。