先生と17歳のあいだ
「出席取るから席つけー」
校舎にチャイムが鳴り響くと、郁巳先生が眠そうに教室へと入ってきた。
「いくみんどうしたの。顔色悪くない?」
「昨日飲みすぎたんだよ」
「じゃあ、1時間目は自習でいいよ」
「バカ、早く座らないと欠席にするぞ」
たしかに先生はお酒が抜けてない感じがするけれど、いつもどおりの調子だった。
そのあとホームルームが終わって、教室を出ていく先生を私は追いかけた。
「あ、あの……!」
先生は立ち止まって振り向く。具合が悪いせいなのか表情がいつもより険しい気がする。
呼び止めたのはいいけれど、なんて言えばいいのだろう。
そもそも昨日私に会ったことすら曖昧だったら?
その可能性も十分にある。
「的井」
「え、は、はい」
「髪の毛にゴミついてる」
先生はそっと私の前髪に触れた。どうやら昨日のことは覚えていないようだった。
「ありがとうございます」と、その様子に胸を撫で下ろしていると……先生がぼそりと耳打ち。
「俺の頬っぺた三万だからな」
鼓膜に直接届くような重低音に身体がゾクッとなった。
「お、覚えてたんですか?なんで……」
私は頭が真っ白になって動揺を隠せなかった。
「記憶飛ぶほど飲んでたら、そもそもまっすぐ家に帰れてないから」
「……ということはすべて覚えていると?」
「うん」
まずい。どうしよう。
言い訳をぐるぐると考えていると、先生が深いため息をはいた。