先生と17歳のあいだ
「あの時から、的井さんのことが気になってた。だって学校は好きじゃないけど、郁巳先生は楽しくて面白くて好きって、俺にはそう聞こえたから」
自分で自覚していなかったことも、案外周りの人のほうが敏感に感じ取ってくれる時もある。
「あの時から、的井さんは先生しか見てなかったね」
先生のことを好きになって、私は片想いのツラさを知った。けれど、同時に私は自分が経験していた苦しさを先輩に与えていたのかもしれない。
「私、先輩の気持ち、すごく嬉しかったです。先輩がいたから頑張れたことがたくさんあって、先輩がいたから私……」
どうしよう。たくさん言いたいことがあったのに言葉にならない。
先輩は初めて私に好意を寄せてくれた人。
人から想われることがこんなにも嬉しくて、暖かいことなんだって先輩のおかげで私は知ることができた。
「俺、的井さんのこと本当に好きだったよ。でも最後まで付き合ってほしいとは言えなかったけどね」
言わなかったのは、先輩の優しさ。
先生への想いで揺れている私を困らせないようにと、つねに私のことを優先してくれていた。
「郁巳先生のことを応援する、なんて言えないけど、俺はいつも的井さんの幸せを願ってるから。それだけは絶対に忘れないでね」
「はい……っ」
私は込み上げてきた涙を指で拭った。
背中を丸めて歩くことが癖だったけれど、これからは背筋をピンと伸ばして過ごそう。
こんな優しい人に想ってもらえたことを強さに代えて。