先生と17歳のあいだ
「全部が今までどおりってわけにはいかねーよ」
私の話を黙って聞いていた先生が、静かにタバコの煙を夜空に吐いた。
「実はうちも母子家庭で母さんは2回も失敗してる」
「……そう、だったんですか?」
「うん。今は3回目の結婚で幸せにやってるよ。でもそれは3回目に出逢った人がいい人だったって理由だけじゃなくて、1回目と2回目の失敗で学んだから掴めたものだと俺は勝手に思ってる」
先生は、以前私に言ってくれた。
失敗しないこともすごい怖いことだと。
それで失敗して立ち止まったら、それは本当に失敗したという結果だけで終わる。
大切なのは、失敗しても立ち上がり続けることだって。
もしかしたら、先生はお母さんの姿からそれを学んだのかもしれない。
「いつかもう少し時間が経ったら、迷った過去のことを笑って話せる日がくるよ。お前の両親も、的井自身も」
先生の言葉に、私はぎゅっと唇を噛む。
人生は私が思っているよりも、ずっとずっと長いのだろう。
私の思い描いていた家族の形は壊れてしまった。でも、散らばった欠片をいつまでも拾っていたって仕方がない。
手からすり抜けていったものではなく、今度はすり抜けないものを自分自身で掴みにいく。
先生は引っ込み思案だった私に、たくさんの勇気をくれた。