先生と17歳のあいだ




「ありがとうございます」

……ミルクと砂糖の甘い香り。火傷しないように息で冷ましながら私はコーヒーを一口飲んだ。



「わっ、美味しい……」

素直に味の感想を言うと「淹れ方がいいんだよ」と、先生は自慢気に微笑んだ。



私のコーヒーはもちろん甘くて、先生のコーヒーは多分なにも入ってないブラックコーヒー。


苦いはずのコーヒーを先生は普通に飲んでいて、なんだか甘くしてもらった私がひどく幼く見える。

マグカップを持つ綺麗な指先も、睫毛が長い伏せ目がちな瞳も。やっぱり先生は大人の男の人。



「……味覚って、大人になると変わるものなんでしょうか」

私はぽつりと呟く。



「変わるよ。だって俺もコーヒーなんてただの黒い液体だと思ってたし、ビールだってあんな不味いものをなんで大人たちは旨そうに飲むんだろうって不思議だった」


「先生、お酒も飲むんですか?」


「うん。酒とタバコは二十歳で覚えた。唯一、手を出してないのはギャンブルくらい」


「そうなんですか」


先生のプライベートな部分。以前はまったく興味がなかったけど、今は単純に教えてくれて嬉しいという感情が溢れてくる。


先生は学校以外ではなにをして過ごしているんだろう。

人のことが苦手なのに、先生のことはもっと知りたいと思ってしまう。


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