先生と17歳のあいだ



「寂しい考え方をするなよ。カメでも恋愛するっていうのに」


そう言って先生がカメの水槽を私の目の前に置いた。


日光浴ができてすっかりご機嫌になったカメは、ガリガリと爪を立てて水槽を登ろうと頑張っている。



「こいつ元々は2匹で飼われてたんだよ。でもメスのほうが病気で死んじゃって、暫くはすげえ落ち込んでたよ」


「……カメに感情があるんですか?」


「感情ってのがなにを指すのか俺は生物学を取ってないから詳しくないけど、人間以外の生き物にも感情脳が存在するらしいから、少なくとも嬉しいとか悲しいとかはカメでも鳥でも虫でも感じるんじゃないかって俺は思うよ」


先生は再び苦いコーヒーに口をつけた。



「でも決定的に人間とそれ以外の生き物の違いは、いくら寂しくてもムカついても憂さ晴らしができないってところだよな」


「憂さ晴らし、ですか?」


「だって人間は酒を飲んで嫌なことを忘れたりできるし、遊びにいって気分転換もできるだろ?贅沢だなって思わない?」



……贅沢、か。

そんなこと考えたこともなかった。けど、そういう考え方ができる先生が羨ましい。



「だから水槽の中でしか飼うことができないカメのために、せめて可愛い彼女でもまた探してやらなきゃなって思ってるんだけど」


先生は目を細めて、カメを愛しそうに見てた。

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