溺甘系朧咲夜【完】


俺はその前に両膝をついて、咲桜の手を取ろうと手を伸ばしかけた。


……でも、触れられずに、引っ込めた。そのまま、話し出す。


「……咲桜に告白出来なかった理由、……俺、桃子さんに逢ったことはない。俺たちが在義さんと知り合う前に亡くなってるから。……でも、桃子さんが誰だか、知ってるんだ」


はっとしたように、咲桜が顔をあげた。


……咲桜に、ずっと隠していた秘密。出来ることなら知られたくなかった……。


「桃子さんの本当の名前……生まれた時の名前は、神宮美流子(じんぐう みるこ)。俺の、行方不明だった姉なんだ」


咲桜は、ただ大きく目を見開いた。


……咲桜を、小さな頃から見守ってきた子を傷つけるような話を、自分からすることがあるなんて……。


俺は、生まれてすぐに家族を失った。


みんな、殺された。ただ一人、現場である実家から姿を消した、姉の美流子を除いて。

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