溺甘系朧咲夜【完】
だが、桃子さんが美流子だと気づく者はほかにはいないだろう。
在義さんと話して、この話は闇に葬ることにした。
咲桜は、在義さんと桃子さんの娘、華取咲桜。俺は、神宮家の生き残り、神宮流夜。それだけで、いい、と。
だが、美流子は俺の姉だが、血の繋がった姉だが、本当の姉ではない。
遠縁の神宮家の娘で、俺が生まれる前に、うちへは養子に入っていたんだ。
従姉弟やはとこなんかよりもっと遠い血縁で、名前がつくような関係ではない。
咲桜を、在義さんの娘として、幼い頃から知っている子として可愛がっているうちはそれでよかった。
けれど、恋人になって、将来を望む関係になるのなら、黙っていてはいけない気がした。
……それを言う決心がつかなくて、また言っていいかも悩んで、在義さんに相談した。
咲桜が卒業するまで告白を待ってほしい、と時間稼ぎをしたのは、どうすれば咲桜に嫌われないように、嫌悪されないように伝えられるか、咲桜を手放さなくて済むように画策するためだった。
そんな姑息な企みも、咲桜の涙を見て泡と消えた。
流れた涙のあとを、両手で包む。
「……好きだよ、咲桜」