溺甘系朧咲夜【完】
伝えなくては。
あの日、泣いてまで咲桜の告白を誤魔化した理由を。
全部、咲桜に抱いている想いも。
……咲桜を泣かせるくらいなら、嫌われた方がマシだ。
「知ったのは、俺が大学生になってからだ。在義さんの協力を得てわかったことだから、在義さんは承知している。俺も、美流子が養子で実の姉ではないってことは前から知ってた。
……咲桜と血縁だって知って、正直複雑な気持ちになった。家族がいたことの嬉しさよりも、咲桜に美流子のことを知らせたくないと思った。
家族皆殺しにされて一人生き延びて、美流子がどんな風に生きて来たか、どんな思いで生きて来たか、咲桜にだけは知られたくないって。
……俺と在義さんの、咲桜をこちら側に巻き込みたくないって考えは同じだ。だから、俺から在義さんに、咲桜には言わないでほしいって頼んだ―――っ⁉」
いきなり、胸倉つかまれて俺の口に堅いものがぶつかった。咲桜の歯、だった。
それは瞬間のことで、俺の唇に傷痕を残して、咲桜はすぐに離れた。
「さ、お……?」
「お返しです。って言うかあんな公衆の面前でするなんて何考えてんですか⁉ さっきまで友達いたんですよ⁉ 学校にバレたらどうする気なんですか!」
お、怒られた……? そこなのか?