溺甘系朧咲夜【完】


違う存在、か。


「それが急に『先生』って呼びだしたときは驚いた。距離、咲桜の方から離された気がして」


本当小さな頃咲桜は、俺のことだけ『お兄ちゃん』って呼んでいた。


それがだんだんそう呼ばれる回数が減って行って――そもそも呼びかけられること自体減って行って(嫌われたかと思った時期もある)――、高校に入学した途端、『先生になるので、今日からそう呼びます』って言われた。


「それは……その、私の性格の悪いところが出てると言いますか……」


「ん? どういう意味?」


咲桜、性格悪くないだろ。そう言うと、うようよと目線を泳がせる。


「お、お兄ちゃんって呼ぶこと自体恥ずかしくなっていったのと、そう呼ぶことで本当に『妹』に見られたら嫌だなーって思うようになったのと、……」


「あとは?」


「……学校ではみんなの『先生』だけど、私だけの『先生』もいます、みたいな自己顕示欲と言いますか……なんと言いますか……」


なんだその面白い理由は。


「咲桜」


「はい……引きました?」


「全然。あとね、もうお前のだよ」

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