好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
snow mistの握手会は、CDショップ内のイベントスペースで開催される。

ずいぶん早く目的地に到着して、イベントスペースどころか、そのCDショップすらまだオープンしていなかった。

田舎では小さなCDショップがどんどん潰れていく時代に、その店だけで一つの建物を占有してしまうような大きな店は初めて見た。



俺以外の客は、まだ一人もいない。

俺はまだ開かない扉の隣に立ち、スマホの画面を開いた。



ほのかは上京してから、一度だけメッセージを送ってきた。

初めての一人暮らしで不安になったのだろうか。

メッセージが送られてきたのは、引っ越したばかりの頃だった。

段ボールが積まれた部屋の白い壁を背景に、一人でピースサインを作るほのかの写真が添えられていた。
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