好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
ようやく店がオープンした。

店員が開いた扉を抜けて、イベントスペースへ向かう。

会場の扉の前でも、俺は先頭に立つことができた。



最初は客はまばらだったが、開始時刻が近づくと長い行列ができていた。

自分がステージに立つ訳でもないのに、俺は妙に緊張していた。

久しぶりにあいつに会える。



アイドルがファンと握手するのは普通のことだが、中学生にもなるとそう簡単に幼なじみの手は握れない。

期待と興奮と緊張が入り混じったような感情は何なのだろう。



俺は、あいつの熱心なファンになってしまったのか……

いや、ファンじゃなく、俺はあいつの幼なじみだ。

自分はこれから芸能人に会いにいくのか、幼なじみに会いにいくのか、よくわからなくなってしまった。
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