好きの代わりにサヨナラを【蒼編】《完》
「……どの問題?」

あいつは真面目で勉強が得意な割に、数学だけは苦手だった。

公式を当てはめるだけの基本的な問題は解けても、複雑な応用問題になると解けなくなってしまう。

テスト前には問題集を抱えて俺の部屋に来ることがよくあった。



「これ」

綺麗に爪が整えられた人差し指が指している問題を確認する。

横座りするあいつの隣に座って、俺はノートに答えを書いていく。



「すごいね、蒼。こんなにスラスラ解けて……
あたし、全然わかんない」

「別に、すごくねぇよ」

俺の手元にあるノートを真剣にのぞきこむ。
あいつは、少し目が悪いんだろうか。

ノートに顔を近づけてきたあいつの髪からは、甘い香りがした。
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