ドラマチックな恋は、突然に。
「あの…そこ座りませんか」

ベンチを指差されて、とすんと腰を下ろした。

お互いに何も喋れなくて、沈黙だけが流れる。

……もう潮時なのかなと思う。

こないだもなんとなく旦那に勘づかれそうにもなって、いつまでもこうやって彼との付き合いを続けていくこともできないのかもしれないと思った。

彼と会えたことで、味気のない毎日にスパイスがきかせられて楽しく過ごせてもいたけれど、これ以上関係を踏み込めばもう後戻りができなくなるようにも感じた。

「光希くん……」

別れを切り出そうと呼びかけると、

「……志穂さん」

呼び返されて、ドキリとする。

やっぱり、もう彼のことを好きになりかけてるんだと感じる。

このまま会っていたら、もっと惹かれてしまう。そうして関係が深くなることだって、あるのかもしれないと、

「……ごめんね、私……」

言いかけたのを遮るように、

「もう会えないんですか? 志穂さん」

彼が、切なげに声を落とした。

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