自由という欠落
がらんどうな方程式
マチエール、絵肌に女の体液を塗り込みたがる絵描きなど、彼女くらいだ。
胸臆は抗議するのに、その実、Yの喉はひとたび恋人が筆を握ると、野生的な女の悲鳴を送り出すだけの器官になる。
赤い豹柄のバスタオルが、Yの片側の乳房から下腹を愛想程度に覆っていた。開脚を命じられた下半身の間には、極太の玩具。Yは男の象徴を目に確かめたことがないが、少なくとも今、すました顔でキャンバスに利き手を滑らせている恋人の指ほど繊細で甘美ではないだろう。
ヴィィイイイイン──……
「んんっく……ああぁんっ」
にわかに玩具の雁首が、Yの最奥にこよなく近い場所へ至った。
ヴィィイイイイン…………ヴン!ヴィン!ヴィィイイイイン…………
くちゅくちゅ……
ぬちゃ…………
「あああっっ」
「うん、溢れてきた。足りなかったんだ、有り難う」
Yの泉門から唇を離した女の頰は、濡れていた。唾液より、彼女の所望している成分が多くを占めているだろうそれは、抜かりなく指先も灌水させている。
「やっぱ玩具じゃダメだね。Yちゃんを満足させられるのは、私だけだ」
岸田は片手に握ったものを上下させながら、目当ての体液を掻き出す片手間に、恋人の感じやすい部分をつつく。
「あああああっっ」
無邪気な少女の笑顔で資材を搾取している岸田は、美術教師だ。弱冠二十七歳の、芸術界ではアクリル絵師としても、若干の名を馳せている。