自由という欠落





 幸福の景色を形成していた暮橋を喪失したYは、職員会議での発言権も認められなくなった。教員らは議題が尽きると、とりとめない論議より、現実の問題に向き合いたがる。彼らの世間体、彼らの名誉の防護のために、一日も早く贄を吊るし上げようと必死だ。校長は教員らを黙認している。Yに反論の余地はない。彼らの指摘は事実。Yは彼女の何も知らなかった。彼女の何も見ていなかった。



「大人げありませんね、いじめはどっちですか」


 悪意のざわめきは、そうした職員会議という懲戒が行われていた中で、突然止んだ。


「暮橋さんのことは、非常に残念でした。私も悲しみが溢れて、止まりません。その悲しみを、Y先生は、身近に体験されました。先生方なら、彼女を救えたんですか。どうにか出来たのでしたら、どうすれば良かったか教えて下さい」


 最年少の美術教師が立席していた。同僚と休み時間を過ごす姿が見かけられたこともなければ、挨拶を除けば、ろくに交流した教員がいるかも怪しい。
 まだ大学生と言われても信じられる初々しさだ。
 彼女がYを弁護するつもりで発言したとする。だとすれば、とうとうこんな年下の女にまで世話をかけなければならなくなるほど自分は落ちぶれたのだと認めざるを得ないのだと、Yは情けなくなった。


 反論は認めない。仮に反論したとしても、お前に立証出来るものか。


 岸田の声は、無言の牽制を備えていた。
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