自由という欠落





「ふぅ……、今日は終わり。ここからは、心置きなくYちゃんチャージ!」

「本当に悪びれないわね。人のものを搾り取って、今度のコンテストもどうせ大賞とるんでしょ。人のものを使って」

「もっち。見て見てー、ピンクと紫のマチエール。水だと薄まっちゃいすぎるから、Yちゃんのいやらしいお汁で柔らかくして使ったんだよ。綺麗でしょ」

「水が使いづらいなら、ジェッソ使えば」

「ダメなの。誰にでも描ける絵になる。貝殻や原石を削って地塗りしている人は結構いるし、私は愛する人の一部が良いの」


 慚愧もなければ羞恥もない。

 羨ましいほど素直な女は、今振り返ると、自分と愛をささめき合うような関係を築けたことが不可解なまでに、Yとは対照的な身性だ。感心しながら、Yは快楽の余韻の彼方に、かつて自分も彼女に釣り合いのとれた人間であったことを回顧する。



 あの一件がなければ、自分も彼女と同じように笑えていたのか。

 同じように、周囲のものを愛せていたか。…………





 岸田の芸術は難解だ。

 モチーフの多くは女の裸体で、モデルは作品に仕上がると、ほとんど影も形もなくなる。岸田曰く、絵とはリアルと仮想との矛盾、実在する対象に情念を吹き込まないで作品と自称したものなど、写真と変わらないらしい。

 Yにしてみれば、自分や可愛い妹が、度々、彼女のモデルになっている。羞恥も顧みない貢献が可視的に残らないのは、安堵と同時に気が抜けもする。
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