自由という欠落







 その年の冬は、気体が白く凍った具合に底冷えした。

 年が明けて、校内が再び活気づいたあとも屡々、Yは二人の逢瀬を見かけた。委員会での交流はないようだが、ふと目を遣ると、見つめ合う仕草が習慣化している二つの目と目におりふし交差している感じはあった。一学年の生徒らも馴染んできたところがあって、発言も目立つようになっていた。例の少女も、今やYの目にとって、景色の一部のままであるはずがない。



「お誕生日おめでとう」

「覚えていてくれたんですか?」

「当たり前じゃない。貴女が生まれてきてくれたから、私は今こんなに幸せ。ありがとね」

「……、そんな……。でも、可愛い。有り難うございます」

「きっと似合うと思ったんだ。わたしが見たかったの。つけてあげる」

「はい、……」


 小さな銀のリボンが付いたヘアピンと、クリスタルとピンクのラインストーンが連ねてあるヘアピンのセット。小さな煌めきが一年生の少女の髪を飾った瞬間、Yの胸にまで星が降りた。

 あまりにもうぶで、焦れったく深く慎ましやかな愛情。満足げに微笑む上級生に、限りない信頼を返す天使。


 白い季節が過ぎ去って、まさか、こうにも幸せな少女達が別離に引き裂かれようとは、Yでなくても予想出来なかっただろう。



 教師らの愛着を一身に集めて、Yも例にもれることなく耽溺した女子生徒。月とは似ても似つかなかった、表裏変わらないと見えていた少女は、自ら手首を切ったのだ。
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