自由という欠落
生徒の自殺未遂は、創立以来、初めてだった。
暮橋は意識の戻った病室で、教師や親、あらゆる大人達の尋問を受けた。二年、三年と彼女の担任に就いていたYは、特に厳しい追及の対象だった。警察の聞き込み調査も粘り強かった。
いじめの事実は上がらなかった。生来明るい少女自身の口から、厭世に繋がる糸口も。
真相はヴェールに包まれたまま、暮橋を含むごく穏やかな日常が戻った。彼女は三年生の課外活動も美化委員を志望して、親しい少女も従っていた。何事もなかった風な日々が流れた。Yがおりふし見かける懇ろな少女達の距離は、遠目に見かけるのも後ろめたくなるほど密度を極める一方だった。
春、岸田がYの学校に就任した。
画家を志していた彼女は生活のために職を選んだところがあって、周囲に馴染めない、否、馴染まない自身を気にも留めないで、彼女の世界を所有していた。それでいて職務はそつなくこなし、有名なコンテストで賞を欲しいままにしていた彼女はベテランの教師らも一目置いていた。