自由という欠落

* * * * * * *

 飛翔し損ねた少女は、ひと月後、深夜の私室で大量の薬を嚥下した。


 暮橋の両親とマスコミの紛紜、公の機関による校内への立ち入り調査、教師や生徒が負った精神的ショック。…………

 Yの悪評は引火が燃え広がる勢いで広がった。追いつめられていた生徒を見て見ぬ振りで見捨てた教師。暮橋が職員らの人気を集めていたのもあって、担任への攻撃は日に日に陰湿さを増した。



「本当にご存知なかったんですか」

「Y先生、今朝ね、出かける時また警察の方に止められたの。近所にも聞き回っているみたい。早く解決してもらえない?」

「これだから若い教師は……。何も知らなければ責任を負わなくて済むと思っているのよ」

「先生のクラス、三年でしょう。志望先の高校によっては、こんなことがあった学校の子をどう受け入れるか……。受験生の親御さんには、どう説明なさるんですかね」

「……すみません」



 心から笑ったのはいつだろう。二十四年生きてきた、私の得たものは何だったのよ。



 Yの振り返る来し方に、あの裏庭で見かけたようなきらびやかなものはなかった。そこそこに学んでそこそこの学校を出て、月並みの人間関係の中にいた。とりたてて熱中した趣味や目標もなく、教員免許の取得において喜んだのは、職の安定の付随があった。

 何も持たなかった。

 ただあの少女、ここ数ヶ月間、Yの目を無性に惹いた暮橋の幸福を見かけることが、日々のささやかな潤沢だった。自分には持ち合わせなかった胸の高鳴り。輪郭の育っていない希望、期待。


 何もなかった。



 人はこの世に生を受けた瞬間から、器量に見合った輝きしか得られないのだ。
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