打って、守って、恋して。

駅の改札口あたりで待ち合わせということになり、私はソワソワと落ち着かない気持ちを深呼吸することで押さえながら、通行人の邪魔にならない位置でひっそりたたずんでいた。

土曜日、十九時、駅の改札口で。

そう約束をして、ここに来たのだけれど。
すでに待ち合わせ時刻から十分が経過している。

なんとなく藤澤さんの性格的に遅刻などしそうもないので、これは何かあったのかなとも思ったけれど、それなら連絡が来てもおかしくはない。


せっかくクローゼットから引っ張り出してきた水色のシャツワンピも、今さらながら地味だったかなと後悔した。

足元を見下ろして、これからどうしようかと考える。
万が一すっぽかされたりしたら、さすがに心が折れてしまいそう。

沙夜さんからは『かんなちゃんは、かんなちゃんらしく!』という激励のメッセージと、気の抜けた顔のウサギのスタンプが携帯に送られてきていた。
何度か見直すけれど、やはり藤澤さんからの連絡はない。


二十分が経過して、さすがにこちらから連絡してみようと携帯を手に取った時、ひとつの影がサッと私の前を横切っていくのが見えた。
はっとして顔を上げると、白いデザインTシャツに黒いパンツをはいた藤澤さんが、たぶん私を探しているのだろうがキョロキョロと辺りを見回している。

目の前にいるのに気づかれない私って……。

虚しくなりつつ、「藤澤さん!」と声をかけた。

< 101 / 243 >

この作品をシェア

pagetop