打って、守って、恋して。

「休みの日でも、いつも自主練してるんですか?」

結局、二人きりで出かけたって、私が彼にするのはいつもと同じ。野球に関すること。だって、気になるから。


ちょっと小洒落た感じの、ダイニングバーに来ていた。
地下にあって、普段なら通り過ぎてしまいそうな場所で、少し薄暗い照明がまたいい雰囲気を醸している。
「焼酎バー」というのを打ち出していて、森伊蔵を取り扱うには間違いのなさそうなお店だ。

ちなみにこのお店は、藤澤さんが事前にちゃんと調べておいてくれたようで、行き当たりばったりでなんとかなると思っていた私とは大違いだった。


まず手始めに注文した茜霧島の水割りを飲みながら、藤澤さんはやや考え込むようにして眉間にシワを寄せる。

「自主トレは、いつも……ってわけじゃないです。気が向いた時に仲間を誘ってみて、何人か集まったらやる感じですかね」

「日本代表ってどんな気持ちですか?日の丸を背負うってことですもんね……。想像できないや」

「社会人チームは世間にはあまり注目されてないので、そんなに気負ってないです。たぶん、みんなトップチームの方に関心があると思うので」

「トップチームって、プロの方々の?」

「そう、結局そっちにしか周りの目線がいかないから、俺たちは気楽ですよ」

それは何度も代表に選ばれているからこその言葉じゃないのか?とも感じたけれど、彼の言うことは分からなくもない。
たしかに、ネットで調べても、新聞に載っていても、社会人チームのことは小さな記事で取り扱うかどうか。プロのトップチームのことは誰が選ばれたとか誰は落選したとか、連日盛り上がっている。

そういう小さな差でも、プロとアマチュアがどれほど違うかを示されているよう。


ずっと気になってたんですけど、と藤澤さんは前置きして首をかしげた。

「石森さんは、社会人野球の何がよくて好きになったんですか?」

「きっかけですか?」

手元の焼酎をちびちび飲んでいた私は、ふと顔を上げて目をぱちぱちと瞬かせる。

「藤澤さんがきっかけですよ」

「えっ、俺?」

「はい。私、それまで本当に野球どころかスポーツに興味なかったですから」

念のため運動音痴なので、とつけ加えておいたが彼の耳に届いたかどうかは定かではない。

「自分がなんにもできないから、あまり興味を持てなくて。野球はおじいちゃんが好きで、昔よく中継を見てたなって印象しかなかったので」

「昔はよくやってましたね、たしかに」

「大好きな番組が野球中継で潰されたりすると、なんなの!って思ってました。その時だけはおじいちゃんが敵に見えたりして」

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