打って、守って、恋して。
「お待たせいたしました、森伊蔵お二つです〜」
タイミングよく、待ちに待った森伊蔵が届けられた。
コトンとグラスをテーブルに置かれ、私と藤澤さんは期待を込めた目でそれを一点に見つめる。
店員さんが立ち去った後、どちらともなくお互いにグラスを手に取った。
「これ、いくら?」
「三千円……」
「…………なるほど」
二人とも、ほぼ同時にごくりとなにかを飲み込んだ。
「どうぞ、石森さんから」
「そんな!ここは藤澤さんから」
「……じゃあ一緒に飲みましょう。せーの」
彼のかけ声とともに、高級なプレミアム焼酎を喉にぐいっと流し込む。
横目で彼を見たら、ごくごくと彼の喉仏が上下に動いているのが見えて、彼も一気に飲んでいるのが分かった。
まだ半分ほど中身を残して一度グラスを口から離し、お互いに目を合わせる。
先にしゃべったのは藤澤さんだった。
「─────飲みやすい、かな?」
「そうですね、飲みやすいです」
「あとは?」
「……飲みやすいけど、……普通……のような」
「やっぱりそうですか。俺もまったく同意見です」
「普通ですよね!?」
「うん、普通」
そこまで意見を交わして、ふふっと吹き出した。彼も笑っている。
「だめだ、大して違いが分からない」
「私も。これが三千円か……」
「うーん、そう考えると」
ちょっと高いかな、と藤澤さんが目を細めた。
こういう、プライベートな部分の彼を知るファンはどれほどいるのだろう。
野球がとても好きで、だけど好きだけじゃ叶わない夢に破れて、それでも続けている。
そんなひたむきな姿を魅力的に思っている人はどれほどいるのか?
私以外にも、たぶんいるんだろうなというのは容易に想像できた。
いくら他の人に比べて目立たないからといって、彼のファンがいないわけがない。凛子の話では藤澤さんは決して女性ファンは多い方ではないと言っていたけれど。
だけど、なんだかちょっともやもやした気分になった。