打って、守って、恋して。
マウンド上でガッツポーズをして吠えているシーンをとらえたその写真は、なかなか迫力のあるものだった。
チームカラーがブルーのようなのだが、青い帽子をかぶっていても「この人はかっこいいな」と分かるような目立つ顔立ち。
彫りが深くて、だからといってくどくない万人受けしそうなキリッとした男らしい人だ。
いかにも、凛子が好きそうな。
「プロ野球と違って、社会人野球の選手って手が届きそうだもんね。柑奈ちゃん、この人狙ってるの?」
ネイルが取れかけてきたのか、しきりに爪をいじりながら沙夜さんが私に問いかけてくる。
どうやらこの人たちは、私までもが栗原さんのファンになっていると思い込んでいるらしい。
「狙ってませんよ、野球のルールも知らないのに近づけませんって。彼を狙ってるのは、私の親友ですから」
「どうかねぇ、試合のあと激ハマりして色々グッズとか買っちゃうタイプじゃないの?」
淡口さんまで私の必死な抵抗をはねのけてきた。挙句、なんか勝手にいかにも私がミーハーだみたいなことを言ってきてるし。
「野球はルールをちゃんと理解して見るとすごく奥が深いよ。どうだい、俺から教わるか?」
「淡口さん、なんかやらしい目〜」
「その目は変態オヤジっすね」
上司に向かって普通にツッコミを入れている沙夜さんと翔くんは、なかなかの強者である。
「ルールは親友から勉強中ですので、大丈夫です!昨日はゴロとフライとファウルと、それから盗塁とエラーを覚えましたよ!」
凛子からすすめられて半ば強制的に買うことになった『初心者にやさしい!野球の基本を学ぶルールブック』を、いつも持ち歩いているバッグから引っ張り出して三人に自慢げに見せつけた。
おー!と翔くんが大げさに拍手してくれる。可愛い後輩だ。