打って、守って、恋して。
ラーメンからいきなりパフェに飛んだから、藤澤さんは意表をつかれたように目を丸くした。
やっぱりアスリートは食事に気を遣うのだろうか?
「甘いものは控えてますか?」
「いや、好きですけど。飲んだあとにパフェかー……、流行ってるのは聞いてましたけど、本当なんですね」
「藤澤さんも、よかったらぜひ!あ、大会前にだめですか?」
体重の変動とかに気を遣っているのならばパフェを持ち出したのは無神経だったかも、と彼の顔色をうかがっていると、意外にも藤澤さんはふっと微笑んだ。
「まあ、今日だけなら別にいいか」
思わず、やったあと飛び跳ねて喜んでしまった。
「ちょっと歩きますけど、可愛いお店知ってるんです。こっちです!」
「か、可愛いか……。浮かないですか、俺」
「大丈夫ですよ、男性も来てます」
彼のシャツを引っ張ると、少し遅れて早足でついてきた。
二人で並ぶと、歩調を合わせて歩き出す。
歩きながら、藤澤さんが私の顔をのぞき込む。
「じゃあパフェを食べながら、今度は石森さんの話を聞かせてください」
「え!?私!?」
思わずのけぞって驚き、ぶんぶんと首を振って
「なんの変哲もない人生を歩んできたので、面白みの欠片もありませんよ?」
と念を押すように言うと、彼はここで初めてはっきりと不満な気持ちを顔に出した。
「俺のことばかり話してましたけど、石森さんも話してください。そうじゃないと一方的に知られているみたいでなんか不公平ですから」
「不公平……」
そんなこと、考えてもなかった。
たしかに彼のことばかり根掘り葉掘り聞いていたわりには、自分のことは何も話してなかったかもしれない。
「えっと、どこから話せばいいですか?本当に興味ありますか?」
「ありますよ、なければ聞きませんから」
「そうですか……」
あっさり認められると、照れるひまもない。
「パフェでも食べながら、聞かせてください」
窓口に立っている時とも違う、試合に勝った時とも違う、たぶん素の彼と、私はいま歩いている。
甘いパフェを食べながら、彼の笑った顔を見るのはきっと最高だろうな。
……なんて口が裂けても言えないことを考えてしまった。