打って、守って、恋して。

聞けば、合宿は五日ほどで終わるらしい。
あとは一週間後にアジア競技大会に向けた結団式と出陣式、それをこなしたあとはプロの二軍チームや社会人チームとオープン戦を数戦して、本大会に向けて現地である中国へ出発。

話だけを聞くとなかなかのハードスケジュールだが、何度か日本代表に選ばれている藤澤さんはそれが普通であると思っているようで、全然苦ではないのだという。

夏の甲子園で活躍した高校生たちやプロのトップチームがメディアに大々的に取り上げられる中、社会人代表は取り立てて触れられることもなく、私としてはそれはそれで少し不満にも感じた。
同じような状況なのに、あまり注目されないのもいかがなものか。

今まで完全にスルーしていた自分も腹立たしかったけれど。


「そういえば、今度の大会はテレビでやるの?」

沙夜さんの方向からは地味にカタカタとキーボードをうつ音は聞こえてくるので、どうやら手元は仕事をしているらしい。
しかし、発言がまったく仕事に集中していない。

それを指摘するでもなく、私もついつい答えてしまう。

「それが……どの競技もやらないんですよ。野球はBSでは放送されるみたいなんですけど、それも準決勝に進まないとだめみたいで。予選はネットで速報を見たり、結果だけ見るしかないんです」

「あらあら、そうなんだあ」

「あれ?うちの事務所のテレビってBSもCSも見れましたよね?」

翔くんの聞き捨てならない一言に、私も沙夜さんも即座に彼の方を振り向いた。

「そ、そうなの!?あそこのテレビ!?」

「オリンピックのカーリング、前にみんなで観戦したじゃないですか。あれたしかCSだったような」


事務所の一角にある簡単な応接スペースには、例えば翔くんの言うようにオリンピックだとか、それからワールドカップだとか、もしくは北海道の高校が甲子園で準決勝に出たりとか、そういう時だけ稼働するテレビが置いてある。
スポーツに一切興味がなかった私は、それさえほとんど見ることもなかったものだ。

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