打って、守って、恋して。


少し前の私なら、テレビでやっていたとしても絶対にみることのなかった野球中継。
最近は、もっと詳しくなりたいという気持ちからプロ野球をきちんと見るようになった。

つけっぱなしにしていたテレビから、実況アナウンサーのまくし立てるような言葉が矢継ぎ早に聞こえてくる。


ナイター中継を聞きながらお風呂上がりに冷蔵庫からお茶を取り出して飲んでいると、突然わぁっという歓声が上がったのでふとテレビに目を向けた。

なんとなく見たことがある選手が、どうやらホームランを打ったらしく拳を突き上げてガッツポーズしながらグラウンドを一周しているところだった。
笑顔いっぱいのその選手がホームベースにとんっと小さくジャンプして乗り上げ、チームの仲間たちが彼の頭をヘルメット越しにばんばん叩きながら笑って迎え入れている。

試合終盤の、逆転スリーランのようだった。

『これはまさかの展開でしたね!ここでスリーランが出てしまったのはあちらとしては誤算でしょう。……さぁ、こうなると抑えの守護神が出てくることは必須ですね』

実況アナウンサーがやや興奮気味にそんなことを言っている。


タオルで髪の毛を軽く拭きながら、床に腰を下ろしてテレビに見入る。

もしも藤澤さんが高校生や大学生の時にプロに入ることになっていたら、今こうして彼に会うこともなかったんだなと。
部屋着のショートパンツにぽたぽたと髪の毛から水滴が落ちて、慌ててそれを拭き取る。

途中で、手を止めた。


私は、彼のファンなのだろうか。それとも彼に恋をしているのだろうか。

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