打って、守って、恋して。

ぎゅうっと自分の手を握りしめて、どこにも吐き出せないこのなんとも言えない気持ちを、無理やり閉じ込めようとした。
その時、テーブルに置いていた携帯が鳴ったので顔を上げる。

タオルを肩にかけ直して、携帯を手に取る。
ディスプレイを見た瞬間、全身が震えるみたいにドキッとした。
『藤澤 旭』という名前が、思いっきり表示されている。

待たせてはいけない!と、ごちゃごちゃ考えるよりも先に電話に出た。


「はいっ!石森です」

『藤澤です。こんばんは』

普通に電話が来るなんて、予想していなかったので焦る。
こんばんは、と震える声で挨拶を返した。

「あの、合宿中なのでは?」

部屋のカレンダーを目で辿りながら聞いたものの、そこでハッと気づく。
もう合宿が始まってから一週間が経っていた。自己解決。

「あっ、終わったのか……。もう帰ってきてるんですか?」

『はい、今日の夕方の便で帰ってきました。それで…』

電話の向こうの藤澤さんが、いったん言葉を区切る。
「それで?」と答えを催促したら、再び彼が口を開いた。

『お土産を買ってきたんです』

「私に!?」

『はい。今から会えますか?』


会いたい。今すぐ会いたい。
だけど、今現在の私は─────

「す、す、少し時間をいただけませんか?」

動揺を隠しきれずに完全に上ずった声を出したから、当然このおかしな物言いに彼が気づかないわけがない。

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